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山頭火とコーヒー (9)

JUGEMテーマ:コーヒー
山頭火とコーヒー (9)
 
coffeecup

 『 十一月十一日 晴、時雨、――初霰、滞在、宿は同前。
 山峡は早く暮れて遅く明ける、九時から十一時まで行乞、かなり大きな旅館があるが、こゝは夏さかりの冬がれで、どこにもあまりお客さんはないらしい。
午後は休養、流れにはいつて洗濯する、そしてそれを河原に干す、それまではよかつたが、日和癖でざつとしぐれてきた、私は読書してゐて何も知らなかつたが(谿声がさう々と響くので)宿の娘さんが、そこまで走つて行つて持つて帰つて下さつたのは、じつさいありがたかつた。
こゝの湯は胃腸病に効験いちじるしいさうなが、それを浴びるよりも飲むのださうな、田舎からの入湯客は一日に五升も六升も飲むさうな、土着の人々も茶の代用としてがぶ々飲むらしい、私もよく飲んだが、もしこれが酒だつたら! と思ふのも上戸の卑しさからだらう。
……
 今夜は飲まなかつた、財政難もあるけれど、飲まないでも寝られたほど気分がよかつたのである、それでもよく寝た。繰り返していふが、こゝは湯もよく宿もよかつた、よい昼でありよい夜であつた(それでも夢を見ることは忘れなかつた!)
 「しぐるゝや人のなさけに涙ぐむ」
 「山家の客となり落葉ちりこむ」
 「ひとりあたゝまつてひとりねる」 』

 衣を川で洗濯し河原で干すものの、読書に熱中し雨に濡れてしまった。それを宿の娘さんが走っていって持って行ってくれた。ひとの暖かさをいたく感じ、「 … 人のなさけに涙ぐむ」のである。気分がよく、財政難もあるものの、いつも飲んでいる酒を飲まずに済んだというのだ。そして「夜半の雨がトタン屋根をたたく … 」音を聞きながら、「ひとりあたゝまつてひとりねる」のは、旅の孤独を感じながらセンチメンタルな気分になっていたのでしょうか。

 ひとの情けに感じて酒を飲まずに済んだのは、山頭火の心の空白を埋めるために酒に頼っていたのかもしれません。

(続く)
 
  • 2015.12.20 Sunday
  • 11:17